博多座の市川海老蔵さん(11月7日)

 
 先日大学院の休講日に、博多座で歌舞伎を観てきました。昼の部の狂言は『外郎売』『蓮獅子』『与話情浮名横櫛』です。
『外郎売』は海老蔵さんの当たり役。あの天から降ってくるような海老蔵さんのつややかな声が舞台に響いたときは、胸がワクワクしました。私は特に海老蔵ファンというのではないのです。けれども、やはり海老蔵さんには観客を期待させる何かがあるのです。おなじみの早口言葉もなめらかで、姿もやはり華がある。けれども…。
『蓮獅子』は市川右近さんの親獅子に市川猿弥さんの仔獅子。右近さんのキレのある踊りに猿弥さんも応え、息の合った気持ちの良い舞台でした。
『与話情浮名横櫛』(よはなさけうきなのよこぐし)は、江戸時代の世話物、お富と与三郎の因縁恋物語です。二人が出会って、お互いに見つめ合いながらゆっくりと半円を描くように歩く場面。いわゆる「つけまわし」の演出ですが、私はロイヤル・バレエ団のマクミラン版『ロミオとジュリエット』を連想しました。お富の福助さんは、仇っぽい女ぶりがしたたるような風情、湯上がりに髪をすく様子などは、ほんとうになまめかしい。若旦那の出自を感じさせる海老蔵さんもいい感じなのですが…。
 私には、何故か海老蔵さんがしっくりこないのです。蝙蝠の安五郎の市蔵さんがいい味をだしていて、与三郎が大いに引き立つはずなのに。海老蔵さんは注目されすぎて、きちんとやろうと思い過ぎなのでしょうか。以前の海老蔵さんのようなのびやかさがない。まわりと呼吸があっていない感じ。そんなにたくさん舞台を観ているわけではない私が申し上げるのは僭越ですが、海老蔵さんは今、何か葛藤があるのではないでしょうか。だとしたら、海老蔵さん、大いに悩んで大きくなって下さい。
 博多座には、今回も小川軒の『レーズンウイッチ』が出店していました。私の学生時代のあこがれのお菓子です。おみやげに買って帰りました。(三浦裕子)