猛暑を経て迎えた秋は、格別の味わいがあるように思います。

猛暑を経て迎えた秋は、格別の味わいがあるように思います。19日澄みわたった夜空に浮かぶ仲秋の名月の美しさも、気持ちが洗われるようでした。
9月のSweets&Tableは暑さを避けて、21日から28日までいたしました。庭には彼岸花が咲いています。今月のテーマは和のテイストのお菓子です。テーブルも銘仙風の布で作ったクロス(自分でミシンをかけました)、お敷きに古伊万里のなます皿を配しました。

一年目のお菓子は「ロールケーキ・宇治」「ガトーバスク・あずき」「ポルヴォロン風きなこのクッキー」です。このメニューは教室を始めて以来作り続けているものです。25年ほど前に考えたお菓子ですが、その当時はまだ私自身抹茶、あずき、きなこなどを洋菓子に生かすということに慣れておらず、ずいぶん考えて試作したことを覚えています。ロールケーキ・宇治は、やわらかいジェノワーズ生地にやわらかいぬれ甘納豆をちらして、抹茶入りのシャンティクリームで巻いたものです。あれこれ迷った末に抹茶を洋菓子に生かすなら、生地に焼き込むよりもクリームに入れた方が風味がいきるし、わかりやすいと考えました。ガトーバスクにあずきを入れて焼くお菓子は、月餅がヒントになりました。ガトーバスクの生地をやわらかめにして小豆には少し生クリームを加え、ラム酒を効かせて焼き上げます。このガトーバスクあずきは、人気のあるお菓子に育ちました。ポルヴォロンというスペインやポルトガルにあるクッキーをイメージして作った和風のクッキーが、きなこのクッキーです。本来のポルヴォロンはあらかじめオーブンで焼いた小麦粉で作るクッキーですが、きなこなら、そのまま加えたらあの独特の歯ざわりがでるし、しかも香ばしいと思いついたものです。

今月は、三年目以上から一番長く続いているクラスまで同じメニューにいたしました。和テイストを加えたお菓子といテーマにのっとって「抹茶のタルト」と「若松」と名付けたロールケーキです。どちらも今年の夏に考えた新作です。抹茶のタルトはパート・シュクレにアーモンドクリームではなく、やわらかく軽くしっとりとした生地を詰めて焼き、抹茶風味のイボワールシャンティをのせたタルトです。タルトの生地はさくさくになるようにから焼きし、ぬれ甘納豆をちらしています。正直に申しますと、このお菓子はまだ改良の余地があると思っています。あえて今月クラスで作った理由は、和の材料を洋菓子に使う時の工夫の仕方をみていただきたいと思ったからです。アーモンドクリームに抹茶を加えるのではなく、柔らかい生地にして、和菓子のしっとり感を表現するというような…。長いクラスの方々は「私ならこうしてみる…」と考えられたはずです。ロールケーキ若松は、スフレ生地を使いました。プレインなスフレ生地と抹茶入りのスフレ生地を作り、二つをマーブル状になるようにオーブンプレートの上で混ぜて焼きました。卵色と抹茶色の生地が織りなす様子から若松という名をつけてみました。中には、イボワールシャンティとイボワール入りのカスタード、2種類のクリームを使っています。

まずは各クラスの抹茶のタルトをご覧下さい。

 



ロールケーキ若松・ふたつのクリームで、をご覧下さい。

実は、9月は和の要素を加えたお菓子を提案したいと考える過程で、いろいろな気づきがありました。ひとつをあげるなら、和と洋をあわせるにあたっては、自分の立っている塾足をどちらにかけているかを明確にしておくことの大切さです。今月は、私の和菓子の十八番である「浮島」をメニューにいれるつもりでした。シナモン風味にして、バターの風味をつけたシロップ煮のさつまいもをちらそうと考えていたのです、けれども、洋菓子用の型で作る浮島は、上手に蒸し上がりませんでした。何度か蒸し器の具合を変えて試してふと気づいたことが、私は何を作ろうとしているのだろう…ということです。洋菓子の製法に和のテイストを加えるという基本に戻ってら、若松ができました。生地とクリームが一体になった、とろんとしたおいしさは和の感覚だと思います。

こんなことを考えたこともあり、今月は「和菓子のとらえ方」について時間をとってお話をしました。田島間守の中島神社の起源から唐菓子の英影響を受けて発展た過程、南蛮菓子によって持ち込まれた砂糖、茶の湯とともに発展したお菓子、江戸時代の元禄以降の和菓子の完成期までをざっとおさらいたうえで、和菓子の精神、四季をめでるという日本人の感性、花鳥風月を思い出し、育みましょう、と皆さまに投げかけてみました。これは、私自身にとっても大切なテーマのひとつです。とはいいながらも、ライ麦入りの薄焼きパンにマヨネーズとパルメザンチーズをぬったて焼き、ベビーリーフとハムをのせたオーブンサンドでティータイムは始まるのでした(笑)(三浦裕子)