シルビー・ギエム&東京バレエ団(11月14日)


 教室の合間の13日の日曜日、福岡サンパレスでシルビー・ギエム&東京バレエ団の『HOPE JAPAN』を観ました。
『白の組曲』の幕があがると、そこはベルベットのような深い黒の舞台に白い衣装のダンサーがぴたりとポウズを決めた幻想の世界です。いわゆるシンフォニックバレエといわれるこの演目はバレエの美しさ、見せ場をコラージュした華麗な作品で、パリ・オペラ座バレエ団のオープニングの顔見世として有名です。つまり純粋に踊りのテクニックを楽しむものなので、端的にいえば、上手なダンサーが踊ってくれないとがっかりする演目なのですが、この夜の東京バレエ団は美しかったです。オペラ座バレエが華麗さならば、東京バレエ団は静謐ですみずみまで磨きあげられた丁寧さ。私はこの夜初めて二階堂由依さんを観たのですが、パリとロシアの良さが融合したようなそのたたずまいは、大輪の花が咲く予感がしました。
 そしてギエムのソロの『ルナ』。この作品を観るのは3度目ですが、月明かりのような青白い照明でバッハの調べにのって舞うギエムは、時空を越えた存在。この夜はとりわけやわらく観客の心を包むような情感にあふれていました。ベルリンで好評を博したという上野水香さんと高岸直樹さんの『詩人の恋』はM・ベジャールの24年前の作品だそう。詩人が踊り子に恋をして…というわかりやすい(?)内容を、上野さんはキュートに高岸さんは包容力あふれる踊りで魅せてくれました。『TWO』は舞台に浮かび上がるスクエアな空間でくり広げられるシャープでパワフルなパフォーマンス。ギエムの身体がしなり空気を切り裂きます。モダンさと野性味が混ざり合って、舞台から流れる電流のようなものを感じ、観客の気持ちを高揚させるダンスを見る喜びを再確認しました。
 そして『ボレロ』。2005年に封印したこの作品を、ギエムは東日本大震災のために再び踊ることにしたのです。もちろん2005年は観ました。一度最後と公表したものを再度踊るということは、ギエムには覚悟が必要だったと思います。もう、観ない方がいいかもしれない…という気持ちもあったのですが、テレビのニュースで福島で踊るギエムを観たら、ギエムが鎮魂の祈る巫女のように感じ、すぐにチケットを手配しました。この夜の『ボレロ』は素晴らしかったです。ギエムから熱いエネルギーがほとばしり、ぐいぐいとまわりを引っ張っていき、劇場いっぱいにうねりがひろがりました。ギエムはやはり凄いダンサーです…。と同時に、M・ベジャールという人の凄さが胸に残りました。(ときどきバレエ評論家の三浦裕子)