『春調娘七草』(はるのしらべむすめななくさ)

6月の博多座は大歌舞伎です。大学院の合間をぬって、昼の部を観てきました。

『春調娘七草』(はるのしらべむすめななくさ)『三人吉三巴白浪』(さんにんきちさともえのしらねみ)『太刀盗人』『極付 幡随長兵衛』(きわめつき ばんずいちょうべえ)という狂言です。

『春調娘七草』は曽我十朗、五郎の仇討ちを下敷きにした舞踊。なんとあの静御前がでてきて、曽我兄弟とからむという時代を無視した設定なのですが、なんでも曽我兄弟の仇討ちは江戸時代の人気ストーリィで、毎年いろんなアレンジ(?)を加えて上演されたとか。これは、静が七草を俎板をで叩く所作を取り入れられとり、正月の七種行事を描いた趣向になっています。富士を背景にして五郎が今回襲名した中村歌昇さん、十朗に中村錦之助さん、静御前に芝雀さんが踊る舞台を堪能しました。

『三人吉三巴白浪』は例の三人の盗賊が出会う大川端の場面。染五郎さんのお嬢の「月もおぼろに白魚の〜」、松緑さんのお坊が「お坊吉三と肩書きの武家お構いのごろつきだっ」そして梅玉さん和尚。七五調の名台詞を楽しむ胸のすくような舞台でした。

『太刀盗人』は狂言の『太刀奪』を素材にした舞踊。ほろ酔いの田舎武士を演ずる三津五郎さんがおかしくて、楽しくて。素踊りのすばらしい三津五郎さんですが、こんな役も上手なんですよね。

そしてご存知『極付 幡随随長兵衛』吉右衛門さんの長兵衛!おさえてもかくしてもこぼれる度量が大きさがあり、でも町人の軽みもあって…ほんと胸におちる長兵衛です。水野からの呼び出しを受け、死を覚悟して乗り込むことを決めて、お時の用意した紋付袴に着替える場面。長竿のべんべんとした音色が二人の心情を語ります。ふと帯をしめる手を止めてお時を見やる長兵衛。胸がしめつけられるようです。そういえば「人は一代、名は末代」という台詞は、明治生まれの祖父の口癖でした。若い頃は、幡随長兵衛の幕切れが悲しくてきらいでしたが、今では生きるということの意味を問われるとも感じます。博多座には今年の2月に亡くなった母の写真を持っていきました。今まで歌舞伎は母と一緒に観に来ていたのです。母がいたら、どんな感想をいうだろうか…などとも思いながら、非日常のひとときを過ごしました。(三浦裕子)