博多座の勘太郎さん(3月8日)
ユキヤナギが咲き始め、沈丁花の香りが漂い始る頃。お菓子教室の準備や仕事の合間をぬって、博多座で平成中村座の歌舞伎、夜の部を観てきました。狂言は『棒しばり』と『夏祭浪花鑑』です。勘三郎丈の休演のため、急遽昼の部の『俊寛』には中村橋之助さんが、夜の「夏祭浪花鑑』の団七には勘太郎さんが代演しているのです。
ニューヨーク、ベルリンで熱狂的に受け入れられたという『夏祭浪花鑑』を私は楽しみにしていました。いろんなところで評判を聞いていたのです。とにかくぞくぞくするくらい面白いと。けれども周知のとおり勘三郎丈は休演。それでも「命をけずって父の代役を務めます」と語っていた勘太郎さんの姿をテレビで見て、これはやはり行けなければ…と思ったことでした。
物語の舞台は江戸時代の浪花の夏祭り。魚屋を営む団七は、まがったことが嫌いで情のあつい男。喧嘩っ早いのが玉に傷ですが、女房お梶と子ども3人で幸せに暮らしています。ある時恩人の息子を助けたいがためにはずみで義父を殺めてしまい、そんな団七をお梶、義兄弟の徳兵衛夫婦が損得抜きで助けようとして…。団七が義父に謗り嘲られ、はずみで手をかける場面は陰惨な殺し場が絵画のように展開し、観客も一体となって息がつまるよう。団七と徳兵衛が義兄弟の契りを確かめあう場面、そんな男達を支える女達の気っ風の良さは、胸がすくところ。評判通り、血肉が沸き立つ舞台でした。
団七の勘太郎さんはもう120 Pokies%の熱演。声もしぐさも驚くほど勘三郎丈に似ています。けれども爽やかすぎる…情に熱くて喧嘩っ早く脛に傷もつ男の肉厚さ、弱さがない。しかしこれは欠点ではないのです。むしろ勘太郎さんの精悍な芸風としなるような身体能力が滲みでていて、彼の魅力を再確認する感じです。楽までにもう一度、観に行こうと思いました。
日本の文化は、茶の湯の詫び、さびばかりではありません。(私自身、表千家に入門して20年ですが)歌舞伎のように人間の弱さ、愚かさも含めて肯定するエネルギーあふれる様式美もあるのです。歌舞伎を見た後は、小さなお干菓子というよりも、ほろ苦いチョコレートのフランス菓子、オペラをいただきたい気分です。(三浦裕子)